オリジナル小説『8月31日の夜に』③

喫茶店に手ぶらで行ったぼくは、本を手に持ったまま家路につくしかなかった。A子の持っていた袋をなぜかぼくは断り、しかし自転車のカゴにそのまま入れれば傷みそうだったので、結局手でもって帰ってきたのだ。本を持ちながらハンドルを操作することで、家に着くときには、にじんだ汗と不要な力みがカバーをふやけへたらせていた。

 喫茶店に手ぶらで行ったぼくは、本を手に持ったまま家路につくしかなかった。A子の持っていた袋をなぜかぼくは断り、しかし自転車のカゴにそのまま入れれば傷みそうだったので、結局手でもって帰ってきたのだ。本を持ちながらハンドルを操作することで、家に着くときには、にじんだ汗と不要な力みがカバーをふやけへたらせていた。

 ぼくは引き出しからそっと本を取り出すと、乾いてくしゃついたカバーを確かめた。カバーは返すときにでも新調すればいい。もしメモが挟まっていたとしたら、あの無神経な運転で落ちてしまったのではないか。その考えがぼくを焦らせた。

 意を決して本を開き、ページをめくり、また次のページをめくる。パラパラっと親指を端から端まで這わせてみても確認できない。ぼくは絶望しながら、本の背の方を持ってゆらゆらと振ってみた。なにも出てこない。胸を締め付けられる思いで、両手でしっかりと持った本を睨む。もしかしたらメモは杞憂で、最初からなかったのかもしれない。だとするとA子の言動はすべてが謎に包まれているのだが。

 そこでハッとした。メールしてみればいい。メモが実在していたら恰好はつかないが、気づかないよりはマシな気がする。

 携帯を取ろうと本を机に置いた瞬間、ビリっと破れた音がした。カバーにできた柔な部分が耐えきれなかったらしい。小さなため息をつきながら、破れた部分を確認した。なにか、違和感が。破れた穴から手書きの字が見えた。ぼくは手早くカバーをはがすと、ついさっきまで失ったと諦めた宝を拝んだ。

 どうしてこんな手の込んだことを。探していたメモ、いや手紙は、本体のカバーに替わって現れた。普通は白紙になっているカバーの裏に、細かい文字が敷き詰められている。ぼくはこれを作りあげたA子に少し怖さを感じながら、スタート地点を探した。

※noteの『#8月31日の夜に』に着想を得た作品です。
※気まぐれに加筆・修正・有料記事化する場合があります。

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